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2008年07月31日

【論文】「米原子力空母の首都圏母港化の致命的危険性、科学的、理論的検証」

横須賀基地への原子力空母配備の予定は9月。いよいよ1ヵ月少しと迫っています。
 この間、横須賀市はじめ行政はアメリカの主張する原子力空母の安全性を信用し、配備に協力する姿勢を見せています。

 本当に原子力空母、動く原発は安全なのでしょうか?
 今回は、今野 宏先生が発表された論文「米原子力空母横須賀配備と住民の反対運動」から、原子力空母の危険性を科学的に解説された章を抜粋してお届けします。

★ここで紹介するのは論文の抜粋要旨です。全文は東京反核医師の会ホームページで紹介しています。
★この記事は、著者の今野 宏先生から転載許可を得て掲載しています。ご利用下さる場合は、この記事のURL(http://tokyohankaku.seesaa.net/article/103935956.html)もしくは
公式サイトの記事URL(http://www.ask.ne.jp/%7Ehankaku/html/NuclearCarrierYokosuka.html)を付記してください。
「米原子力空母の首都圏母港化の致命的危険性、科学的、理論的検証」

今野 宏(こんの・ひろし)

(「米原子力空母横須賀配備と住民の反対運動」今野 宏、日本の科学者 2008年、43巻、8月号、10〜15ページより抜粋)



米軍艦用原子炉は商業炉よりも安全か

 米国政府が2006年4月17日付で日本政府に示した「合衆国原子力軍艦の安全性に関するファクトシート」は、目本の政府ならびに国民に、原子力空母の横須賀配備に当たって、安全上間題はないことを説明する文書である。

 そこには、「軍艦用原子炉は、加圧水型原子炉(PWR)であり、商業用原子炉に用いられている基本的な設計」であると説明している。
 そうであるならば、これらの原子炉の基本的原理に立ち戻って安全問題を考えることができる。およそ原子炉は、核燃料物質ウラン235の核分裂連鎖反応を利用している。この反応は本来、臨界量以上の燃料が集結している状況では急速に拡大し、瞬時に莫大な核エネルギーを解放する、すなわち原子爆発を起こす性質のものである。

 原子炉では、反応の爆発的拡大を抑制する必要のため、反応を媒介する熱中性子の密度が増え過ぎないよう、一定に保つ必要がある。その役割は制御棒が担う。制御棒は中性子を吸収する性質の物質から成る。

 原子炉の炉心は、制御棒が、燃料棒の林立する間隙に挿入される構造になっている。制御棒をいっばいに差し込むと、発生する中性子より吸収される中性子の量が多くなり、連鎖反応は続かなくなる。すなわち、原子炉は停止状態になる。制御棒を徐々に抜いていくと、発生する中性子の量と吸収される中性子の量がバランスして炉の出力は設定値に安定される。

 以上の制御は電子的信号伝達と制御棒を操作するメカニックな機構との結合、メカトロニクスにより、自動的に行われる。自動操作は、核反応か増大する傾向を感知したときにはこれを減少させるように、逆に減少する傾向がある場合は増大するように作用する必要がある。このように作動する制御系を、ネガティヴ・フィードバック(NF)系という。その逆に、反応が増大する傾向を感知した場合に、ますます反応を促進し、減少する場合はますます減少するように作用する制御系をポジテイヴ・フィードバック(PF)系という。

 ウラン235の核分裂反応は、臨界に達すると急激に反応が増大し、臨界以下になればたちまち反応が停止に向かうという、極端なPF系を、それ自身が内包している。すなわち、原子炉の制御は、反応系が持つPF性をNF制御するという組み合わせを持つ点で、その安定な作動条件は厳しいものとならざるを得ない宿命を持つている。さらに、NF系の制御回路も、反応速度などの変化によってはPF系として作動してしまうことすらあることに注意しなければならない。

 以上は全ての原子炉について言えることであり、合理的説明のないまま、軍艦用原子炉だけが特別に安全だといわれても、信用できない。 まして軍艦炉のように急激な出力の加減操作が要求される場合の制御には、通常の発電炉よりも制御が難しくなることが考えられる。 軍艦用原子炉の燃料は、濃縮度が97%の金属ウランであることから、通常炉用の濃縮度3〜4%の酸化物の場合に比して遥かに核の存在密度が高く、炉心はコンパクトにできる一方、制御はより繊細な動作機構を要求されるであろう。 これらの点を如何に解決したかにつき、明確な説明がない限り、ファクトシートの主張を信用するわけにはいかない。


重大事故のリスクと確率


 ファクトシートは、「海軍の原子炉が延べ1億3400万海里、5700年にわたり安全に航行してきた」などと事故発生確率を低く印象づけようとしているが、統計は一切示していない。また、日本の原子力関係者の中にも「環境に深刻な危険を及ぼす原子炉事故の確率は高くないのに、反対勢力は原子力空母の反対理由として強調しすぎる」と批判するむきもある。 そこで「事故発生確率」について考えたい。

 例えば、ある年齢層の平均余命を知るために生命保険会社がサンプリング調査を行うことは、適正に保険料を決定する場合に必要である。一人の人が保険加入を申し出たとき、その人が加入後まもなく死亡するか、あるいは平均余命を遥かに超えて長寿を全うするかは分からない。それでも多数の被保険者があれば、平均余命をもつて保険料を設定することにより、損をすることはない。

 「確率」は、ある程度多数回の事象について成立する概念である。そもそも、事故を軍事機密だとして明らかにしない軍艦用原子炉の事故発生確率など知るよしもない。しかし、仮に事故発生確率が低いとしても、1事故当たりのリスクが巨大な場合は、保険料は巨額に上り、加入できる客はいないであろう。リスクマネジメントとしての保険が、成り立たないのである。

 例えその確率が低いと分かつても、横須賀を母港とする原子力空母の一隻に注目し、それが何時チエルノブイリ級の事故を起こすかは、まったく予想がつかない。明日かも知れないし、最後まで起こさないかも知れない(しかも、脱稿後の5月22日、米原子力空母G・ワシントンは火災事故を起こした)。もし首都圏で起きてしまった場合の被害総額を、未だにガン患者の発生や「第2石棺」の建設に追われるチエルノブイリ事故を下敷きに見積もれば、横須賀を原子力空母の母港としてはならないことは、自ずから明らかであろう。


今野 宏 氏
1932年生。元横浜国立大学講師、物理学、科学・技術史。日本科学者会議(JSA)創立時、神奈川支部結成に参加、現同支部代表幹事、JSA大学問題委員会編『21世紀の大学像を求て』(共著、水曜社、2000)。

posted by 東京反核医師の会 事務局 at 17:10| Comment(0) | 論文・主張 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする